特許翻訳
PCT国内出願段階に入る際、翻訳文に誤訳がある場合の無効に対する認定
発行日 : 2022.12.20

 

事例:国内段階に入ったPCT出願(以下、中国語原文という)において、国際出願原文(以下、外国語原文という)に誤訳があることがあります。例えば請求項において、「10cm」を「10mm」に誤訳したり、「金属」を「金」に誤訳するなどの誤訳があるが、審査官が原文を確認する程度に達せずそのまま特許権が付与された場合、「特許権が付与された文書が保護範囲を超えて中国特許法第33条の規定に違反する」という理由で無効審判が請求されたら、無効になるのでしょうか?

 

この問題に対して、いくつか異なる観点があります。

 

観点1:特許権が付与された中国語文書は中国語原文に基づいて特許権が付与されるものであり、誤訳ついては修正を行っていません。上記の例の10cmまたは金のような部分は修正が行われていないため、修正による保護範囲超過の問題が存在しないということで、特許権が付与された文書について中国特許法第33条による無効請求は認められてはならないと思います。

 

観点2:中国特許審査指南には、「国際事務局から指定官庁や選択官庁に伝送される国際出願は、法的効力を有する書類である」と規定しています。国際出願において、特許法第33条の最初の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲は、最初に提出した国際出願の特許請求の範囲、発明の詳細な説明及び図面のことを指します。したがって、特許権が付与された該当中国語翻訳文は、事実上外国語原文に対して修正を行ったものであり、これは保護範囲を超えているため、無効審判請求が妥当であると思います。

 

観点3:中国特許法実施細則第117条には、「国際出願に基づいて付与された特許権において、訳文の誤りによって確定した保護範囲が国際出願の原文が示す範囲を超えた場合、原文によって制限された後の保護範囲に準じる。保護範囲が国際出願の原文が示す範囲より狭くなった場合は、権利付与時の保護範囲に準じる。」と規定しています。 したがって、請求人の無効審判請求は、場合によって区分して取り扱う必要があります。例えば、「訳文の誤りにより保護範囲が国際出願の原文が示す範囲を超えた場合」(上記の例の10cmを10mmと誤訳した場合)には、「原文によって制限された後の保護範囲に準じる」ことになり、無効請求は認められるべきだと思います。しかし、「訳文の誤りにより保護範囲が国際出願の原文が示す範囲より狭くなった場合」(上記の例の金属を金と誤訳した場合)には、特許権が付与される文書の保護範囲が修正による保護範囲外か否かを判断する根拠となるため、無効請求が認められないべきだと思います。

分析: 観点1は一理あるように見えますが、間違った文書(誤訳のある翻訳文のまま特許権が付与され、誤訳を保留した文書)は明らかに外国語原文と異なります。間違った翻訳文により特許権が付与され法律効力を持つことは不公平なことであり、これは「出願日」からも分かります。上記の翻訳文の誤りによる無効請求件は、事実上新しい技術方案が国内段階に進入した後国際出願日のメリットを受けることになるので、一般大衆にとっては公平性を失い、修正して翻訳する方案を悪用して新しい権利保護範囲を提示する問題を引き起こす恐れがあるため、観点1は妥当ではありません。

同様に、観点3では「保護範囲が国際出願の原文が示す範囲を超えた」場合と「保護範囲が国際出願の原文が示す範囲より狭くなった」場合を区分していますが、これも合理的ではなく、後者のように金属を金に修正するなど保護範囲を狭めることになりますが、これも一般大衆にとっては不公平なことです。このように国内段階に入るとき、発明特許に対して再提示することによって国際出願日のメリットを受けることは他人の創作動機に対する士気を低下させる行為であり、もし国際出願日と国内段階に入る時点の間に、他の発明者が該当発明を改善して新しい発明を提示し特許権者がこれを剽窃して「自分のもの」として使用することになれば、合理的ではなくなります。

なお、「中国特許法施行規則」第117条は、PCT国内段階に入った後、特許権が付与された文書に誤訳がある場合、保護範囲を判断する関連規定は無効審判過程で修正による保護範囲超過可否の問題とは直接的な関係がないため、保護範囲の変化により修正による保護範囲超過可否を判断して無効を論じることは不適切です。

したがって、筆者は観点2に同意するところ、たとえ特許権者に苛酷かもしれませんが、翻訳文の錯誤は特許権者の責任であり、特許権が無効になってもその結果も甘受しなければなりません。 実際、「中国審査指針」では出願人に翻訳文の誤りに対する修正機会を与えており、出願人は数回誤訳に対する修正の機会を利用し、翻訳および校正を慎重に行い、類似問題の発生を避けなければなりません。

要約すると、筆者は国内段階に進入したPCT出願の場合、特許権が付与された文書の誤訳による無効判断過程で誤訳に対して修正による保護範囲超過可否を判断する際に、国際出願文書に対応する原文内容を基準として判断しなければならないと思います。

 

作成:Panwords